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i+iステーショナリー 誕生記

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斐紙の再現

I+Iステーショナリー 斐紙の便箋
斐紙の便箋

今回の商品作りのために、正倉院文書の中に多く見られる斐紙の再現に挑戦している。千年前の和紙の再現である。 ここで大切なことは、千年前の和紙を再現することが目的ではなく「斐紙」を再現してみたら、その輝くような光沢と、強靱でいて優しい美しさにただ感動した。このあまりにも美しい紙を世に出したいと思った。
たとえ千年前の和紙を再現したところで、それが単なる復刻に過ぎない紙質であったならば、それを商品にして販売することなど考える事もなかったろう。

断っておかねばならないのは、私は和紙を礼賛し、洋紙をけなしているわけではない。 現代の世の中で、我々の身の回りの用に応えてくれるのは洋紙であって、和紙の世界など探さねばない事は十分に承知している。

今回の斐紙の再現の背景と言えば、日本には正倉院という世界でも類い希なる保存装置のお陰で千年前の紙が数多く保存されている。 しかも我々は、その現物を時折の展覧会で目にすることができる。千数百年前に作られた紙とは思えない状態と美しさにお気づきだろうか。和紙は千年を超えての保存性が実証されている世界で唯一の紙でもある。

日本の文化、工芸は、そのルーツをたどっていくと、殆どが渡来であることにたどりつく。紙も決して例外ではなく基本技術は渡来であることは間違いないだろう。
ただ紙の場合は靱皮繊維が原料であるだけに、風土自生のものへの転換は容易であったのだろう。今回復刻している斐紙の主原料は雁皮であり、雁皮は中国、韓国では使われていない、いわば日本オリジナルの原料である。

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authorInoh Ippei  linkLink  comment0  trackback 

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株式会社古今研究所 代表取締役
稲生一平

アートディレクター、陶芸家
1942年生まれ。大手広告代理店に勤務後に独立。異色のプロデューサーとして活動。
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