連載「モノ語り」目次

ラウンジチェア・アームのモノ語り

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1cmにも満たない見事な構造のポイント

ラウンジアームの楔
(写真10)

上述のように、背もたれのトップの横木にスピンドルをセットし、両端の2本を貫通させて、楔(くさび)で止めている。
この僅か1cmにも満たないポイントが、デザインとして、又椅子の構造上、強度上からも、とても大切な意味を持っている。まずこのちいさなちいさなポイントの意匠を見よう。先に割りを入れたスピンドルを通して、上から楔を打ち込んで仕上げるという技法だが、これはナカシマならではのディテールだと思う。

日本古来の楔や、あらかじめ楔を入れてからほぞ穴に組み込む地獄ほぞの技法から発想したに違いない。
このポイントをしっかり固定することによって、全部のスピンドにかかる力の分散と固定をしている。だから、しなうように感じるやさしいバックも必要にして十分な強度を持っている、これも建築家ナカシマの発想になるものかもしれない。

ものの美しさに理屈など必要ないことは十分に理解しているが、こうしてデザインのディテールをつぶさに見てくると、改めてジョージ ナカシマが木匠といわれる所以がよくわかる。半世紀も前に地球環境を思い、自然を愛し、樹を愛した。多くの椅子をデザイン、制作しているが、このラウンジアームチェアひとつととっても宝石のようなディテールがナカシマの思いを語っていると思う。

このラウンジチェア・アームは、現在も米国ニューホープのナカシマスタジオと日本の桜製作所で受注生産されており、入手可能だ。アームは右、左を選択することが可能であり、アームなしのモデルもある。
定番品の他に、大変高価だが、座板の一枚板仕様や、アームに希少材料を使ったこだわりの逸品も受注している。

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「ラウンジアーム」の商品情報は、桜ショップオンラインにてご覧いただけます。

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株式会社古今研究所 代表取締役
稲生一平

アートディレクター、陶芸家
1942年生まれ。大手広告代理店に勤務後に独立。異色のプロデューサーとして活動。
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