連載「モノ語り」目次

文房シリーズ デザイン雑記帳

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特別な引出しの話

文房シリーズの引出し
文房シリーズ デスクの引出し

金物との決別

さまざまな部分で考えられる限り考えているが、その中でも特に思い入れが激しいのが引出しだ。
デザインにあたっての思い入れとして100年もつデスクをと考えた。実際に机を百年使う人はまずいないので現実味はないが、まあ強がりの心意気ぐらいに思って頂ければ幸いだ。

一般論だが機械は必ずと言っていいほど故障する。我が家のポンコツのシステムキッチンもまず金物から不具合が始まる。
道具の寿命を極限まで延ばすためには、故障しそうなものを使わないという最も原始的な方法がある。 今でこそ金属の引出しレールは一般的だが、普及し始めたのはそう昔のことではない。それまでは、そして数こそ減ったが今も、上等の桐箪笥や江戸指物などまるで空気を押すような見事な細工の引出しが、その技を競っている。

文房シリーズの引出し
指かけの穴で引出しを引く。A4サイズが収まる大きさ

ということで、金物を使わないデザインとした。更に引出しの引き手も金物を使わずに指かけの穴で済ますことにした。さりとて昔の上等な桐箪笥のような細工は材料からしても技術からしても現実的ではないので、現在の製造工程で可能な製作方法としている。
引出しといえば、普通は立派そうな前板があり、その後ろに手抜きとは言わないまでも、塗装していない木地の箱がくっついているものだが、文房シリーズでは箱として全ての面を仕上げている。
そのまま机の上に出しても、どこから見ても抜いた引出しには見えない。

それがどうしたと言われれば、江戸の粋とでも答えておこうかと思っている。
ただしレールを使った引出しのようにストッパーはついていないので、そのつもりで引き抜けば落下する。

文房シリーズの引出し
引出しは大・小2種類の大きさ
文房シリーズ初期の引出し
引出し箱の初期モデルでは、上の縁のディテールが直線だったが、
商品モデルでは緩やかな曲面とした。(下の写真参照)
文房シリーズの引出し
引出し箱の製品版は、上端を曲面に仕上げている。
もののクオリティはディテールの美しさの集積だと信じている
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「文房シリーズ デスク(DESK)」の商品情報は、桜ショップオンラインにてご覧いただけます。

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株式会社古今研究所 代表取締役
稲生一平

アートディレクター、陶芸家
1942年生まれ。大手広告代理店に勤務後に独立。異色のプロデューサーとして活動。
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